【高市早苗】新総理に待ち受ける冷徹な現実。「対中抑止の最前線に立つ地政学的緩衝国家」としての役割【中田考】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

【高市早苗】新総理に待ち受ける冷徹な現実。「対中抑止の最前線に立つ地政学的緩衝国家」としての役割【中田考】

《中田考 時評》文明史の中の“帝国日本”の運命【第2回】

 

◾️4.政界再編

 筆者は前回の時評で「国内的には参院選で国内外での分断と対立を煽る排外主義ポピュリスト諸勢力に投票した有権者たちからはSNSで高市の日和見に失望する声があがっており、保守勢力を自民党、与党陣営に取り込む目論見が成功するとは考え難い。

 ―中略― 高市が神道政治連盟や右派のメディアや論壇などの政治活動のプラットフォームで支持者が重なる参政党や保守党との閣外協力を模索するといった排外主義ポピュリストへの接近による政界再編の行方次第では公明党が離脱し、一挙に右傾化が加速する」と書いたが、10月11日の公明党の下野によって政局は政界再編に大きく動き出した。

 自民党は参院選で過半数割れとなったことで、連立の再構築を急ぎ、10月15日には、NHK党の斉藤健一郎参院議員と会派「自民党・無所属の会」を結成し、参院での議席確保を図った。同日高市総裁は日本維新の会の吉村代表と党首会談を行い、連立交渉を開始し、自民党は維新が求める議員定数削減について受け入れ方向で調整に入り[8]、党首会談で20日に閣外協力合意書に署名することで合意が成立した。

 また16日高市総裁は参政党の神谷宗幣代表と会談し「参政党と政策が近い」と述べたと伝えられており、麻生副総裁も日本維新の会を離れた3人も含む7議席を有する野党無所属議員が作る「有志・改革の会」に総理指名選挙での協力を要請している。[9]

 野党側では2025年10月16日公明党が立憲民主党幹事長級と会談を行い、翌17日に党首会談を実施することで合意に達し、その翌17日には、立憲と公明の両党首が正式に会談し一定の一致を見たことが報じられた。 10月16日には国民民主党は公明党との「2+2」会談(両党の代表・幹事長による協議)を実施している。³ ⁴ 立憲民主・公明、国民民主・公明の双方で連携が進展した一方で立憲民主と国民民主の間の直接的な首脳協議は行われておらず、連立政権実現に向けた野党再編は挫折した。[10]

 日本の政界の文脈ではリベラルなハト派として自公連立政権の右傾化に一定の歯止めになっていた公明党の下野により、自民党が公明党に替わって維新その他の右翼政党との閣外協力の道を選んだことによって、日本の右傾化、国粋主義・全体主義・排外主義の加速化は不可避である。

 

与党党首会談に先立ち握手する、自民党の高市早苗総裁(右)と日本維新の会の吉村洋文代表(2025年10月21日)

 

 なぜならば日本維新の会(2016年~)は小さな政府を目指す制度的変革を目標に掲げているが、実のところ(旧日本維新の会:2012-2014年)初代代表の橋下徹が「国旗や国歌に敬意を払えない者は公務員として失格」と述べたのをはじめ「日本の統治は日本人の責任によって完結すべき」として国家崇拝と排外主義の公言によって大衆を扇動するフェイクニュースやヘイトスピーチも厭わぬポピュリズムによって党勢を拡大したのみならず、現在の日本維新の会の政策や議員発言からも、在日外国人の特別永住制度や生活保護を「特権」とみなし社会資源と政治的権利を「日本国民」に限定的に再配分する排外主義的ナショナリズムが透けて見えるからである。

 橋下期以降の維新もこうした自民党右派と親和的な極右排外主義極右排外主義を「自立する国民国家」「国益を守る改革」を標榜する党綱領において受け継いでいるばかりではなく、自民党にはない参政党、保守党、NHK党に先立つ大衆扇動型ポピュリスト政党としての特徴もまた橋下の手法を継承している。[11]

 10月23日付『日テレNEWS』によると日本テレビと読売新聞が行った世論調査によると高市政権は政権発足時としては2000年以降の調査では第4番目にあたる71%の支持率を達成した。参政党、保守党、N国党に先立つ大衆扇動型ポピュリスト政党と連携したことで日本の右傾化、国粋主義、全体主義、排外主義の加速化が早くも始まったのである。

 繰り返しになるが筆者は高市総裁、総理の選択は日本の極右国粋全体主義、好戦的排外主義化を加速する亡国の道だと信じているが、それは高市を総理に選んだ勢力に反対するいわゆる「ハト派のリベラル・デモクラット」に賛同しているわけではない。なぜならば日本の衰退、閉塞感は彼らが互いに批判し合っているようなどちらか一方の責任によるのではないからである。むしろ両者は不即不離、一枚のコインの裏と表であり、両者の二極化と分断の現状そのものが、日本政治が抱える構造的問題が生み出した結果なのであってそのどちらかが原因なわけではないのである。

 連載第一回の【11.西欧近代文明と領域国民主権国家システムの矛盾】で述べた通り、真の問題とは西洋列強が19世紀から20世紀にかけて力尽くで全世界に押し付けた自由、平等、人権などの近代世俗主義的政治理念と領域国民主権国家概念の間の根本的矛盾である。それゆえそれは本質的にグローバリゼーションの一局面なのであり、一義的には2020年代になって顕在化した欧米帝国主義列強とグローバル・サウスの文明史的/地政学的対立の日本における現象形態であり、二義的に“帝国日本”の「大日本帝国期」の敗戦処理の様相である。

 

[8] 「自民「議員定数削減」大筋で受け入れの方向で最終調整」2025年10月18日付『日テレNEWS』。

[9] 「自民×維新の連立前進へ」2025年10月17日付『TBS NEWS DIG』参照。

[10] 「献金の規制強化へ連携」2025年10月16日付『公明新聞オンライン』(URL: https://www.komei.or.jp/komeinews/p458661/)、「玉木雄一郎代表ぶら下がり会見」2025年10月16日付

『国民民主党公式サイト』2025年10月17日付(https://new-kokumin.jp/news/business/20251016_2)、

「第三者機関設置で協力を」2025年10月17日付『立憲民主党公式サイト』(URL: https://cdp-japan.jp/news/20251017_9766)、「献金の規制強化へ連携」2025年10月16日付『公明新聞オンライン』(URL: https://www.komei.or.jp/komeinews/p458661/)、URL: https://cdp-japan.jp/news/20251017_9766、「公明党との党首会談「ともに中道とい

う立ち位置で噛み合った議論ができた」野田代表」2025年10月17日付『立憲民主党公式サイト』参照。

[11] 村上弘「日本政治と『維新の会』ー道州制、首相公選、国会縮減の構想を考える」『立命館法学』12巻4号(2012年)85–108頁、樋口直人「極右政党の社会的基盤 ー 支持者像と支持の論理」『アジア太平洋レビュー』第10号(2013年)15-28頁、「起立しない教員は「クビ」橋下知事、国歌斉唱で処分基準」2011年5月17日付『J-CASTニュース』、石橋学「外国人が優遇されているはデマ」2025年8月14日付『週刊金曜日』参照。

次のページ第二次トランプ政権は属国日本を見捨てるのか

KEYWORDS:

 

 

✴︎KKベストセラーズ 中田考著書好評既刊✴︎

『宗教地政学で読み解く タリバン復権と世界再編』

 

 

※上の書影をクリックするとAmazonページにジャンプします

オススメ記事

中田 考

なかた こう

イスラーム法学者

中田考(なかた・こう)
イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

 

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

日本崩壊 百の兆候
日本崩壊 百の兆候
  • 適菜収
  • 2025.05.26
宗教地政学で読み解くタリバン復権と世界再編 (ベスト新書 616)
宗教地政学で読み解くタリバン復権と世界再編 (ベスト新書 616)
  • 中田考
  • 2024.09.21
タリバン 復権の真実 (ベスト新書)
タリバン 復権の真実 (ベスト新書)
  • 中田 考
  • 2021.10.20